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先日の青春カップの無料配布からの転載です。続きからどうぞ。
「円堂、だからアイツには近づくなと言っただろう?」
いつもはふっくらと柔らかそうな頬が今は赤く腫れて痛々しかった。
この手は離さない
円堂が不動に話があると言った時から嫌な予感はしていた。
だが俺はそれを止めなかった。止めれば自分の不調の原因を言わなければならない。そして、それは影山のことを円堂に知らせるということだ。円堂を巻き込みたくはないし、心配…は既にさせているな。不甲斐ない自分に嫌気が差す。
だが事が事だけに慎重にいかねばならなかった。
だから円堂と不動が話しているのを陰から聞いていた。円堂からは見えない位置に。不動からはよく見れば気付く位置に。奴のことだから気付くと思っていた
まさか。円堂にあんなことをするとは思ってはいなかったが。
「でもさ、不動も様子がちょっと変だし。鬼道と佐久間だって…俺じゃ何も出来ないかもしれないけどさ」
「そうじゃない」
お前はいてくれるだけでいい。守りたいんだ、と。そう言ったら、きっと円堂は怒るだろう。
だが、それが嘘ではない。真実だと言ったら、自分には何も出来ないと思い込み、悲しむかもしれない。
「すまない。お前の負担になるつもりはなかったんだが…」
いつの間に俺はこんなに感情を表に出すようになってしまったのか。ポーカーフェイスを繕うにも無理が出てきていた。
「負担なんかじゃない!俺はただ心配なだけだ!」
「心配させている時点で、既にお前に負担を掛けているんだ。それでなくともお前は今日本代表のキャプテンだ。やらなければならないことが山ほどあるだろう?」
そう、円堂は日本代表の唯一人のキャプテンだ。それでなくともプレッシャーと言う名の重圧が、この小柄な身体に掛かっているのだ。
(俺はそれを支えなければならないのに、何をしてるんだろうな…)
「そうだけど。でも俺だって鬼道の力になりたいんだよ」
「円堂…」
まっすぐ俺を見る眼差しは力強いが、揺れていた。円堂にはいつも笑顔でいて欲しいと思っている自分が、それを曇らせているのだ。
「それに負担って言うの止めろよ。ただ俺は…痛っ!」
「円堂?」
突然痛みを訴えた円堂を慌てて見れば、無意識のうちに俺が頬に触れてしまっていたらしい。
「すまない・・」
「いいって。ちょっとびっくりしただけで、そんなに痛かったわけじゃないからさ」
円堂の頬は赤く腫れていた。不動が残した痕跡だ。
不動の円堂への気持ちの変化には薄々感づいてはいた。恐らくは予測し得る中で最悪の事態の可能性が高かった。
だが・・・・・・それは仕方がないとも言える。円堂に惹かれるなと言う方が無理かもしれない。不動はタイプは違うが、昔の自分のような孤独を抱えている。そんな心に闇を抱えた人間が円堂の光に惹かれないはずがないのだ。
(だが……。)
「円堂……」
「鬼道?どう…んっ」
円堂の唇に啄ばむように触れた。円堂の唇は柔らかく、そして温かかった。
そうして円堂の唇を奪いながら、自分より小柄な体を引き寄せ、手を絡ませた。
(円堂が選んでくれたのは俺だ/……。)
この手を離すなんて愚かなことは決してしない。いや違う。離せないのだ。そんなこと出来るはずもない。
そんなことを思いながら、俺は周囲に注意しながらも、円堂とのキスに没頭していった。
「円堂、もう少し待っていてくれ」
少し長くなってしまったキスの後、立っていられなくなってしまった円堂を座らせ、自分の胸へと寄りかからせる。
「そうしたら、きちんとした確証を得たら、すぐにお前に知らせるから、すまないがそれまで待ってくれないか?」
円堂の髪を撫でながら、俺がそうと言いかければ、小さく頷く気配がした。
「ありがとう、円堂」
きっと円堂にも色々思うところはあるだろう。それでも俺を信じてくれたのだ。その信頼には応えなければならない。
「……俺、待ってるから」
「ああ」
「でもなるべく早く、頼むな」
「わかった」
「あ、でも…」
「?」
そっと円堂が俺の胸に置いていた頭を上げ、まだ赤い顔で俺を見上げてきた。少し目がとろんとしているのが、いつもとは違う印象で、それもまた可愛いなと正直思う。
「心配はしてるからな」
「ああ。わかっている」
そう恋人から釘を刺されて気持ちを持ち直さなければと思う。
このままずっとあの呪縛にとらわれたままでは、こうして円堂に心配をかけさせてしまうということだ。
「早くお前に報告できるようにするさ」
「うん。でも焦るなよ」
「どっちなんだ?お前は…」
俺がそう呆れたように言えば、小さく笑う円堂がいて心が温かくなるのを感じる。円堂がいる限りは俺の心が冷えることはない。
あの男には気の毒だと思うが、譲る気は更々なかった。
「ああ、それとな円堂…」
「ん?」
「不動にはなるべく近づくな」
本当なら絶対に近付いてほしくはないが…。
「それは無理。俺はキャプテンだもん」
…そうだな。お前ならそう言うと思っていたよ。
「まったく。お前ほどキャプテンに相応しい人物はいないな」
その俺の言葉に笑う円堂の手をそっと口元へ運んだ。
「鬼道?」
「これからも宜しく頼む」
末永くな、と心で付け足して、俺はその手にそっと口付けた。
END
不動の想いに鬼道さんは気付いていて円堂くんはまったく気付いていないんです、という話。